私はビビリ屋です。
そんな私はカヤックフィッシングを始めて海のことを知るにつれ、海に出るときは以前よりかなり慎重になりました。風や波が気になれば、出艇を見送ることもあります。
ただ、カヤックフィッシングを始めたばかりの頃は、今思えば海の怖さをよく分かっていませんでした。
釣りに夢中になっていると、海そのものの変化を見落としてしまうことがあります。私自身、実際に潮に流され、「これは本当にまずい」と感じた経験もありました。
その経験をきっかけに、今では釣りのテクニックを覚えることよりも、まず海のことを知ることを優先したいと思うようになりました。
今回は、私がカヤックフィッシングで特に警戒している海域と、そう考えるきっかけになった「洲崎(すのさき)」での危険事象について書いてみます。
半島の先端や地形が変化する場所は要注意

私が特に警戒しているのが、半島の先端や海域が狭くなる場所です。
千葉県なら、
- 富津岬の先端・第一海堡周辺
- 大房岬
- 洲崎
- 野島崎
など。
危険な場所はここだけではありませんが、こうした場所では地形によって潮の流れが強くなったり、複雑になったりすることがあるので、私は特に注視して近づかないようにしています。
潮流れが良く魚影の濃い魅力的なフィールドですが、カヤックのような馬力のない船にとってはその潮流が命取りになりかねません。
ボトルネックは「横方向」だけではない

潮流を考えるときにイメージしやすいのが、海峡のように海が急に狭くなる「ボトルネック」です。
同じ量の海水が狭い場所を通れば、流れが速くなる。これは陸上の水路などでもイメージしやすい現象です。
そして、ここで私が最近特に意識しているのが、ボトルネックは平面的な形だけではないということです。
例えば、海底がなだらかに浅くなるのではなく、ある場所から急に浅くなっている。つまり、海を横から見たときに「通れる水の断面」が急に小さくなるような地形です。
平面上で海が狭くなっていなくても、縦方向に水深が浅くなることで、海水が通れる空間が狭くなる。こうした海底地形の変化も、潮流や波の変化を考えるうえで重要だと思います。
浅瀬や岩礁では、海底地形と水深の変化によって流れが複雑になり、波も立ちやすくなります。特に岬の先端などでは、潮が満ちたり引いたりするタイミングで局地的に流れが変化することがあります。
ただ、こうした海の流れは、海図を見ただけでは読み取りきれないこともあります。
実際の海では、海底の細かな起伏や岩礁の位置、潮の向きなどが複雑に絡み合い、同じような地形に見えても場所によって流れ方が違うことがあります。
そのため、初めて出艇する場所では、周りにパドラーがいれば、私はできるだけ「この辺りは潮が速くなる場所がありますか?」など、その海域の潮流について事前に聞くようにしています。
実際にその海を走っている人から聞く情報には、海図だけでは分からない現地ならではの情報が含まれていることがあります。もちろん、聞いた情報だけを鵜呑みにするのではなく、その日の風や波、潮の状況と合わせて判断することも大切です。
カヤックの巡航速度は、平均時速4~5km。私の使用しているプロフィッシュ45の場合でも時速6kmほどです。
もし潮流がそれを上回るような速度になれば、いくら一生懸命漕いでも潮に押し流されることになります。
これを考えると、カヤックフィッシングでは「釣れるポイント」だけではなく、その場所で潮がどう動くのかを知っておくことが非常に重要だと感じます。
私が洲崎で潮に引き込まれたとき

このことを強く意識するようになったきっかけが、カヤックフィッシングを始めたばかりの頃に館山湾内で経験した出来事です。
私が釣りをしていたのは、洲崎そのものではありません。洲崎からは少し離れた館山湾内。
その日は風も波も穏やかで、海面も落ち着いていました。私はすっかり安心して釣りに夢中になっていました。
ちょうど引き潮のタイミングでしたが、当時の私は洲崎周辺の潮の流れについてほとんど知識がありませんでした。
最初は、ゆっくり流されている程度。
「少し流されているな」と感じるくらいでした。
自分が釣りをしている場所から洲崎までは結構な距離があり、まさかそこまで流されるとは思っていませんでした。
ところが、時間が経つにつれて流される速度がだんだん速くなっていきました。
気がつけばじわじわと洲崎方面へ引き込まれていたのです。
そして、さらに流されていくと海の様子が一変しました。
波が急に高くなり、砕け波が絶え間なく押し寄せています。
カヤックは波に対して横を向かされると、横波を受けて転覆する危険があります。
この状況で横を向かされたら、間違いなく沈む。
そう思い、とにかく船首を波に向け続けることだけに集中しました。
力いっぱい漕いでも、ほとんど戻れません。
30分近く漕ぎ続けても、岸の景色がほとんど変わっていない。
「これは本当にヤバい」
そう感じ、考えたくはありませんでしたが、一瞬「死」ということまで意識しました。
そのとき、海水浴で離岸流に流された場合の対処法を思い出しました。
真正面から流れに逆らい続けるのではなく、流れから抜けることを考える。
そこで、波に対して船首を向けたまま、少しずつ岸側へスライドするよう試みると、少し波が穏やかな場所へ移動することができ、ようやく危険な海域から抜け出すことができました。
着岸した頃には手が痺れ、喉の渇きもかなりひどくなっていました。
幸い、途中で多少リスクを負ってでも給水していたことで、重い症状にはならずに済みました。
今思えば、かなり危ない状況でした。
釣りをしていた場所が穏やかだったからといって、そこが安全とは限らない。
この経験は、私にとって海の怖さを知る大きなきっかけになりました。
実は、危険になる前に予兆があった

後から考えると、ちゃんと予兆はありました。
それまで普通に着底できていたメタルジグが、いつの間にか底を取れなくなっていたのです。
当時は「水深が変わったのかな」くらいにしか考えていませんでした。
でも、今なら「潮に流される速度が上がっているのでは?」と考えます。
もっと陸を見て、自分の位置がどのくらい変化しているのか確認していれば。
魚探を持っていれば、自分がどれくらいの速度で移動しているのか確認できただろう。
そして何より、洲崎という海域について事前にもっと知っていれば。
もっと早く異変に気づけたと思います。
魚探は魚を探すためだけの道具ではありません。
GPS機能で自分がどの方向へどのくらいの速度で移動しているのかを把握することもできる安全装備の一つ、力強い味方です。
「止まって釣っているつもりなのに、実はかなり流されている」
そんなこともあります。
釣りに夢中になっていると、こうした変化にはなかなか気づけません。
だから私は、海に出たら魚だけではなく、陸の景色、潮の流れ、波、風、そして自分の位置を見るようになりました。
また、スマホの海図アプリでもGPSで位置を把握することができたので、カヤックを始めた当時はそちらを利用していました。
しかし、実際にはパドリングやキャストなど海上ではやることが意外と多くあり、結局は一息ついた合間にスマホを取り出して時々見る程度にしか自分の位置を確認できていませんでした。
キャストの合間などにパッと目をやっただけで確認ができる魚探を備えるのは、やはりメリットが大きく早いに越したことはないと今では思います。
釣りのテクニックより、まず海を知りたい
この経験以来、私の中でカヤックフィッシングに対する優先順位が少し変わりました。
以前なら、
「どんなルアーが釣れるか」
「どこに魚がいるか」
「どうすれば釣果を伸ばせるか」
ということを一生懸命考えていました。
もちろん、今でも釣りは上手くなりたい。
でも、それ以上に海の知識を身につけたいと思っています。
潮の満ち引き、潮流、風、波、うねり、海底地形。
岬や岩礁によって、どのように海が変化するのか。
これから漕ぎ出すのはどんな海なのか。
まだまだ私自身、分からないことばかりです。
それでも、釣りのテクニックより先に吸収しておきたいと思っています。
それは自分の安全のためだけではありません。
海には漁船、遊漁船、プレジャーボート、サーファー、ダイバー、SUPなど、いろいろな人がいます。
海のことを知らなければ、自分が危険になるだけでなく、他の海を利用する人たちとのトラブルにつながる可能性もあります。
だからこそ、「釣れる海」を知る前に「安全に帰ってこられる海」を知っておきたい。
これが、今の私のカヤックフィッシングに対する考え方です。
海の情報については、いろいろな入手方法があると思います。
自分で海図を読み漁るのもいいですし、現地でのアングラー同士の情報交換、地域の海況をよく知る地元の方や、パドル講習会などを開催している団体やメーカーさんなどでは豊富な経験から貴重な話が聞けると思います。
カヤックフィッシングは、本当に楽しい遊びです。
だからこそ、慎重すぎるくらいでちょうどいい。
無事に陸へ戻ってきて、
「今日も楽しかったな」と思えること。
それが、カヤックフィッシングで一番大切な釣果なのだと思っています。


